「安全」に偶然あり、「事故」に偶然なし

ある事業所で、乱暴な運転をすると評判の社員がこれまで事故を起こしたことがないと自慢していました。

社内の研修会のときに、管理者がその運転者に聞いています。


管理者「君は、これまで事故を起こしたことがないと自慢しているそうだな」


運転者「そうですね。何か特別に安全運転を心がけているつもりはないんですが、なぜか事故を起こしそうになったこともないですし」

 

管理者「しかし、君の運転は結構荒いと他の社員も言ってるよ」

 

運転者「ええー?そうなんですか?」


管理者「事故を起こしたことがないと言っても、ただの偶然が重なっただけじゃないのかな」

 

運転者「そんなことはないですよ。運転には自信がありますし」


管理者「君は、こんな言葉を知っているかな。『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』と言う言葉だが」

 

運転者「いいえ、聞いたことがないですね。誰の言葉ですか!」


管理者「プロ野球のヤクルトや阪神、楽天の監督などを歴任した野村監督の有名な言葉だよ」

 

運転者「どういう意味ですか?」

管理者「『試合に負けるときには、何の理由もなく負けるわけではなく、何か負ける要素が必ずある。勝った試合でも、何か負けにつながる要素があるけれども、偶然にも勝つことがある』という意味だよ」

 

運転者「その話と、私の事故を起こしたことがないという話と、どういう関係があるのですか?」


管理者「車の運転でも同じことが言えると思わないか?」

 

運転者「はあ?」

 

管理者「まず、交通事故になった場合を考えてみよう。事故は偶然起きたわけでなく、事故に至るまでにさまざまなミスやエラーが重なって事故になっている」

 

運転者「そうですね」

 

管理者「しかし、事故にならない場合でも、さまざまなミスやエラーがあったけれども、偶然に事故にならないこともある」

 

運転者「……」

 

管理者「人間は誰でも、運転中に歩行者や自転車を見落としたり、スピードコントロールを誤ったり、ブレーキ操作が遅れたり、いろいろとミスをすることがあるよな」

 

運転者「そうですね」

 

管理者「つまり、それらのミスがすべて事故につながるわけではないということだよ」

 

運転者「私の場合が、そうだということですか」

 

管理者「そういう可能性もあるんじゃないのかな?」

 

運転者「はあ……」

 

管理者「今は、事故がないかもしれないが、決して安全な運転をしているわけではないと言えるかもしれないよ」

 

運転者「そうかもしれないですね」

 

管理者「これからは『安全に偶然あり、事故に偶然なし』を、常に肝に銘じて運転してくれよ」

 

運転者「はい、わかりました」

事故を起こしていないといっても、それは偶然に事故にならなかっただけかもしれません。これまで事故をしていないとしても、慢心しないでください。

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