心に潜む危険に気づこう

ある事業所で、住宅街で子どもの自転車と接触事故を起こした運転者と、管理者が事故の原因について話し合っています。

 

管理者 「子どもの自転車は、どこから出てきたの?」

 

運転者 「家の前に止めてあった駐車車両の陰からです。その車の向う側に小さな路地があったのですが、気づかなかったです」

 

管理者 「しかし、注意深く見ていれば、家と家の間が離れていたりするから、路地があることくらいはわかるだろう?」

 

運転者 「後から見れば、わかったのですが、運転しているときは気がつきませんでした」

 管理者 「それに、住宅街で駐車車両があれば、そこから子どもが飛び出してくるかもしれないと考えて運転するのは常識だよ。いつもしている危険予測トレーニングでも、そういう場面があるはずだよ」

 

運転者 「はあ……」

 

 管理者 「ところで、君はなんであそこの住宅街を走行していたの? ○○会社に行くには普通あの住宅街は走らないだろう」

 

運転者 「実は、いつも通る幹線道路が混んでいたものですから」

 

 管理者 「混んでた? 君は幹線道路が混んでたら、住宅街を走るのかい!」

 

運転者 「いえ、先方との約束の時間が迫っていて焦っていたんです……」

 

 管理者 「そうか、事故の原因がみえてきたよ。君は『先急ぎの心理』に陥り、危険予測ができなかったんだな」

 

運転者 「どういうことですか?」

  管理者 「まず、混んでいる幹線道路を避けて危険な住宅街に入ったことだよ。少しでも時間を稼ごうとして、人の飛出し等の危険が多い住宅街を選択した。この時点で危険予測ができていなかったといえる」

 

運転者 「はあ……」

 

管理者 「もう一つは、住宅街を走行しているにもかかわらず、子どもの飛出しを予測していなかったということだ」

 

運転者 「確かに、とにかく一刻も早く着きたい一心で住宅街に入っていきましたし、住宅街を走行しているときも、前方しか注意してなかった気がしますね」

 

管理者 「そういう心理が、危険を見えなくさせるんだよ」

 

運転者 「あまり、気にしていませんでした」

 

管理者 「交通事故を起こす危険として、目に見える危険、死角に隠れている危険などいろいろあるが、自分の心の中にも危険が潜んでいるということだよ」

 

運転者 「心の中に潜む危険ですか?」

 

管理者 「そう、『先急ぎの心理』のほかに、カッカしたり、怒っているときなども、平常心のときなら予測できる危険も見逃してしまうんだよ」

 

運転者 「そうですね」

 

管理者 「だから、交通場面に潜む危険を予測するだけでなく、自分の心の中に潜んでいる危険にも気づいて、その心に支配されないようにしなければならないんだよ」

 

運転者 「どうすればよいですかね」

 管理者 「少しでも、先を急いでいるな、カッカしているなと感じたら、深呼吸して、こういうときこそ慎重な運転をしようと考えることだよ。事故を起こせば、結局損をするのは自分なんだと言い聞かせることも大事だと思うよ」

 

運転者 「はい、わかりました」

 

 運転中に焦ったり、怒ったりして危険な心理に陥ると、危険が見えなくなります。交通場面の危険を予測するだけでなく、心の中に潜む危険にも気づいて避けるようにしましょう。